天下取りになった木下藤吉郎が主君である織田信長の「下足番」であった話は、つとに有名です。寒い冬に草履を履く信長公のために、自分の懐で草履を温め、所望されたときに懐からさっとお出しして履いていただく。信長公の満足した様子が目に浮かぶようです。その後も、競争原理を働かせ短期間で砦づくりを成し遂げるなど機転の利く藤吉郎は出世を果たし、名も秀吉に、登用されて身分は次々にあがり、最後は天下統一を成し遂げました。
「下足番を命じられたら日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」。これは、阪急電鉄や阪急百貨店、宝塚歌劇団、東宝シネマなどを創設した実業家・小林一三翁のお言葉です。「不平、不満を言う前に、今自分がある此処でベストを尽くして結果を出そうではないか。そうすれば、その結果そのものが君を放ってはおかない」。なんと勇気づけられる言葉でしょうか。湧き上がる力を感じさせるフレーズでしょうか。
岡山市の学校法人「ノートルダム清心学園」の理事長を務められた渡辺和子さんの著書『置かれた場所で咲きなさい』にも、
「置かれた場所に不平不満を持ち、他人の出方で幸せになったり不幸になったりしては、私は環境の奴隷でしかない。人間と生まれたからには、どんなところに置かれても、そこで環境の主人となり自分の花を咲かせよう」とあります。
渡辺和子さんは成蹊小学校3年生(9歳)の時に二・二六事件に遭遇しました。陸軍大将・教育総監だった父・渡辺錠太郎は青年将校に襲撃され、44発もの銃弾を撃ち込まれ命を落としました。この惨劇を同じ居間で、わずか1メートルほどの距離から目の当たりにしたといわれています。その渡辺さんのお言葉だけにこころ打たれるものがあります。
コロナ渦で閉塞状況が続きますが、明るい明日を心待ちにしながら毎日を過ごして参りましょう。